提案ログイン

大和言葉の数量表現

1. 大和言葉の数量表現の仕組み

大和言葉の数え方は、基本的に次の要素の組合せで成り立ちます。

数 + 位 + 助数詞

ただし、すべての数量表現に三要素がそろうわけではありません。

要素 内容
ひと・ふた・み・よ・いつ、など数そのものを表す部分
そ・お、など十や百の倍数を作る部分
助数詞 つ・お・ち・ぢ・うか・たり・とせ、など数え方を完成させる部分
単位名詞 さら・うた・きれ、など数える対象の名詞を直接置くもの

たとえば、次のように分析できます。

数量表現 助数詞・単位名詞
ひとつ ひと -
とお -
みそぢ
いおち
ももち もも -
ひとうた ひと - うた
ちとせ - とせ

同じ音でも、語によって役割が異なることがあります。

用法
「とお」では助数詞、「いお・やお」では百の位
「はたち・ももち」では助数詞、「千」の「ち」は数そのもの
もも 本来は百そのものを表す数。後代には百の位としても用いられる
一から九の一般的な助数詞。名詞を後ろに伴う形もある

2. 基本となる数

数字 備考
1 ひと 複合語では「ひと」を用いる
2 ふた 複合語では「ふた」を用いる
3
4
5 いつ 五十・五百などでは「い」も用いる
6
7 なな
8
9 ここの
10 一般的な個数形は「と + お = とお²
20 はた 一般的な個数形は「はた + ち = はたち」
30 みそ
40 よそ
50 い/いそ¹ 古い形は「い」。助数詞の前では「いそ」の系列もある
60 むそ
70 ななそ
80 やそ
90 ここのそ
100 もも 百そのものを表す
1,000 「ち」そのものが千を表す
10,000 よろず 「よろず」そのものが万を表す

3. 一般的な助数詞による数え方

一から九

数字 助数詞 完成形・備考
1 ひと - ひとつ
2 ふた - ふたつ
3 - みつ/みっつ
4 - よつ/よっつ
5 いつ - いつつ
6 - むつ/むっつ
7 なな - ななつ
8 - やつ/やっつ
9 ここの - ここのつ

十から九十

数字 助数詞 完成形・備考
10 - お(を) とお/とを
20 はた - はたち³
30 みそぢ
40 よそぢ
50 いそぢ。類推によって成立した形
60 むそぢ
70 なな ななそぢ
80 やそぢ
90 ここの ここのそぢ

4. 百の位

百には、二つの異なる系列が重なっています。

区別
百そのもの もも
百の倍数を作る位 ほ → お

辞書でも、「もも」は百そのもの、「ほ」は何百という複合数を作る要素であり、通常「いお・やお」のように「お」と発音すると説明されています。

もも系

数字 助数詞 完成形・備考
100 もも - ももち。百を一般数として数える形
200 ふた もも ふたももち。用例あり。後代の類推形とみられる
300 もも - みもも。訓読例あり。後代の類推形とみられる
400 もも よももち。用例あり。後代の類推形とみられる
600 もも - むもも。用例あり。後代の類推形とみられる
700 なな もも - ななもも。訓読例あり

お系

数字 助数詞 完成形・備考
200 ふた - ふたお。体系上想定されるが、明確な用例未確認
300 - みお。体系上想定されるが、明確な用例未確認
400 - よお
500 いつ - いつお。用例のある体系的な形
500 - いお。上代から確実な用例がある
500 いおち
500 いおつ
600 - むお
700 なな - ななお。体系上想定されるが、明確な用例未確認
800 - やお
900 ここの - ここのお

百の体系の解釈

古い体系では、次のような区別があったと考えられます。

数の種類 用いられる形
百そのもの もも
百を一般数として数える ももち
百の倍数 数 + お
後代の類推形 数 + もも、または数 + もも + ち

十の位で、

二十 はた
三十以上 数 + そ

という複数の系列があるのと同様に、百にも「百 = もも」「百の倍数 = 数 + お」という区別があったと整理できます。

ただし、「ふたお・みお・ななお」は体系上予想されるものの、現在までに明確な用例が確認されていません。これは語形が存在しなかったことを意味するのではなく、資料に残る系列が不完全であることを示します。

一方、「ふたももち・みもも・よももち・むもも・ななもも」は、「もも」を百の位として再解釈して作られた可能性があります。古い体系そのものではなく、後代に別の原理で再体系化された語形と考えると理解しやすくなります。

5. 千と万

千と万は、別の位や一般助数詞を付けず、それぞれ一語で数を表します。

数字 助数詞 備考
1,000 - - 「ち」そのものが千を表す
10,000 よろず - - 「よろず」そのものが万を表す

「ち」は「はたち・ももち」の助数詞「ち」と同音ですが、千を表す場合は数そのものです。『万葉集』にも「百に千に」の「ち」が確認されます。

「よろず」は一万だけでなく、非常に多いことを表す語としても用いられます。

6. 日数を数える「ひ・うか」

一日は「ひ」を用い、二日以降は歴史的に「うか」という要素を取り出せます。

辞書上は「か」が日数の助数詞とされますが、古い語形を比較すると、「ふつか・むゆか・なぬか・やうか・ここぬか・はつか」からは、歴史的には「か」よりも「うか」を取り出す方が妥当とされています。

数字 助数詞 完成形・備考
1日 ひと - ひ/い ひとひ/ひとい
2日 ふた - うか ふつか
3日 - うか みか/みっか
4日 - うか よっか
5日 いつ - うか いつか
6日 - うか むゆか/むいか
7日 なな - うか なぬか/なのか
8日 - うか やうか/ようか
9日 ここの・ここぬ - うか ここぬか/ここのか
10日 - うか とうか/とおか
20日 はた - うか はつか
30日 うか みそか
50日 - うか いか
何日 いく - うか いくか

十日について

十日は、

と + うか = とうか/とおか

と分析します。したがって、「とお」という数詞に「か」が付いたと決める必要はありません。

五十日の「いか」

「いか」は例外的な暗記語ではなく、

い(五十) + うか(日) = いか

と分析できます。「い」が五十を表す古い数であることを現在まで残している語です。

7. 人数を数える「り・たり」

数字 助数詞 完成形・備考
1人 ひと - ひとり
2人 ふた - ふたり
3人 - たり みたり
4人 - たり よたり/よったり
5人 いつ - たり いつたり/いったり。古くは「いとり」もある
6人 - たり むたり
7人 なな - たり ななたり
8人 - たり やたり
9人 ここの - たり ここのたり
10人 - たり とたり
何人 いく - たり いくたり

一般的な整理では、一人・二人には「り」、三人以上には「たり」を用います。「ふたり」について「ふ + たり」と分析する説もありますが、本稿では表面上の体系に従い「ふた + り」として示します。

ただし、「むたり」以降の語形は、すべてが同じ時代に同じ頻度で使われていたわけではありません。体系表としての規則性と、文献上の用例の多さは分けて考える必要があります。

8. 年数・年齢を数える「とせ」

「とせ」は、年数および年齢を数える助数詞です。

数字 助数詞 完成形
1年・1歳 ひと - とせ ひととせ
2年・2歳 ふた - とせ ふたとせ
3年・3歳 - とせ みとせ
4年・4歳 - とせ よとせ
5年・5歳 いつ - とせ いつとせ
6年・6歳 - とせ むとせ
7年・7歳 なな - とせ ななとせ
8年・8歳 - とせ やとせ
9年・9歳 ここの - とせ ここのとせ
10年・10歳 - とせ ととせ
20年・20歳 はた - とせ はたとせ
30年・30歳 とせ みそとせ
40年・40歳 とせ よそとせ
50年・50歳 とせ いそとせ
60年・60歳 とせ むそとせ
70年・70歳 なな とせ ななそとせ
80年・80歳 とせ やそとせ
90年・90歳 ここの とせ ここのそとせ
100年・100歳 もも - とせ ももとせ
1,000年 - とせ ちとせ
10,000年 よろず - とせ よろずとせ

「みとせ」「よそとせ」は年数と年齢の両方に用いられます。「ちとせ」「よろずとせ」も、それぞれ千年・万年、転じて非常に長い年月を表します。

9. 対象の名詞を直接用いる数え方

和語では、数える対象や単位を表す名詞を、数詞の後ろに直接置く型があります。

数 + 対象名詞

数字 助数詞・単位名詞 完成形
1皿 ひと - さら ひとさら
2皿 ふた - さら ふたさら
3皿 - さら みさら

数字 助数詞・単位名詞 完成形
1歌 ひと - うた ひとうた
2歌 ふた - うた ふたうた
3歌 - うた みうた

「みうた」は「御歌」と同音になり得ますが、数量を表す文脈では「三 + 歌」と分析できます。

切れ

数字 助数詞・単位名詞 完成形
1切れ ひと - きれ ひときれ
2切れ ふた - きれ ふたきれ
3切れ - きれ みきれ

「みさら・みむね・みたび」のように、「み」が名詞や助数詞の前に直接付く用法は古くから確認されています。

10. 全体の体系

大和言葉の数え方は、次のように整理できます。

基本となる数

ひと・ふた・み・よ・いつ・む・なな・や・ここの・と・はた・みそ・よそ・い・いそ・むそ・ななそ・やそ・ここのそ・もも・ち・よろず

位を作る要素

要素 内容
十の位
百の位
もも 後代には百の位としても再解釈される

一般的な数の助数詞

要素 内容
一から九
二十、百など
「ち」の濁音形

対象別の助数詞

要素 内容
ひ/い・うか 日数
り・たり 人数
とせ 年数・年齢

名詞を直接置く型

ひとさら・ふたさら・みさら
ひとうた・ふたうた・みうた
ひときれ・ふたきれ・みきれ

注釈

¹ 五十の「い」と「いそ」

五十を表す最も古い形は「い」であり、「いそ」は「みそ・よそ」などからの類推によって作られた形と考えられています。

² 「とお」の分析

本稿では、十を次のように分析します。

と + お = とお

「と」は十を表す数、「お(を)」は数え方を完成させる助数詞です。

白鳥庫吉にも「とを」の「を」を接尾要素とする分析があります。一方、辞書や比較言語学上の記述では、「とお/とを」全体を一つの数詞として掲げることが一般的です。したがって、本稿では「お」を助数詞として扱いますが、「とお」全体を分解しない分析もあるものとします。

³ 「つ・ち・ぢ」

「はたち」の「ち」と、「みそぢ・よそぢ」の「ぢ」は同じ助数詞です。「ぢ」は「ち」の濁音形です。したがって、歴史的仮名遣いでは「みそじ」ではなく、構造を明確にするため「みそぢ」と書けます。

また、「つ」と「ち」を同源とする説は有力です。ただし、「つ」と「ち」の歴史的関係には異論もあります。「ち」と「ぢ」が清音・濁音の関係であることとは分けて考える必要があります。『岩波古語辞典』系の説では、「つ」と「はたち・いおち」の「ち」を同じ要素とします。

⁴ 「いそぢ」の古形

「いそぢ」は、古くは「いち」だった可能性があります。引用: 西宮一民校注『古事記』五十二歳の振り仮名「いちあまりふたつ」。

⁵ 五百の「いつお」と「いお」

体系上は、

いつ + お = いつお

が一から九までの数詞系列に合うため、本稿では「いつお」を先に掲げます。

一方、「いお」は上代から確実な用例を持つ形です。「いほち」の音仮名表記や、「いおつ」などの形も確認されています。

「いつ」と「い」の関係は単純な音の省略と断定できず、辞書でも関係は未詳とされています。